日本医薬品添加剤協会
Safety Data
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和名 ポリオキシエチレンヒマシ油
英文名 Polyoxyethylene Castor Oil 

CAS 61788-85-0 (link to ChemIDplus)
別名 ポリオキシエチレングリセリルトリリシノレート、PEG castor oil
収載公定書  薬添規(JPE2018)
用途 安定(化)剤,基剤,乳化剤,溶解補助剤


単回投与毒性 (link to ChemIDplus)


反復投与毒性 (link to TOXLINE)
マウス
PEGヒマシ油(分子量不明):CD-1マウス(20匹/性/群)に10%PEGヒマシ油(分子量不明)を90日間飲水法で投与した。対照群には脱イオン水を与えた。一般状態を1日2回、体重を1週毎に観察した。死亡例はなかった。投与群の最終体重では、対照群と比較して有意差は認められなかった。腎および肝重量は有意に高く、脳重量は有意に低かった。血液学検査でヘマトクリットの高値および多形核白血球の低値がオスで認められた。血液生化学検査でカルシウム(%)およびクレアチニン(%)が高く、血中尿素窒素−クレアチニン比が両性で低かった。メスではコレステロールおよびアルブミンの高値を、オスではアルカリフォスファターゼの高値が見られた。1) (Borzelleca et al. 1985)

ラット
PEG-40ヒマシ油:Sherman-Wistarラット(15匹/群)に、0.01、0.04、0.16、0.64、2.5および5.0%(投与開始時は10%を使用)のPEG-40ヒマシ油を混餌法で90日間投与した。対照群は検体を含んでいないエサを与えた。体重および摂餌量を毎週測定した。試験前に雌雄各2匹から採血を行い、試験中は定期的に同様に採血した。8週後に、一番軽いオス・メス(それぞれ2匹)を剖検し、組織を取って顕微検査をした。投与期間終了後にも一番軽いオス・メス(それぞれ2匹)を剖検した。試験1週目に、10%群のラットにおいて食物摂取がなかったので、試験濃度を5.0%に減量した。

体重増加、摂餌および血液検査は対象群とほぼ同じであった。肉眼的検査および顕微鏡的検査においては8週や90日目でも有意な差は認められなかった。1) (Industrial Biology Research and Testing Laboratories,)

PEGヒマシ油:SDラットに、0.5%PEGヒマシ油(分子量不明)を摂水法で13週間投与した。死亡例はなかった。対照群と比較して、有意な体重増加の差は認められなかった。脳の相対重量は対照群と比して低値を示した。生化学的、血液学的および病理学的パラメーターにおいて、有意差は認められなかった。1) (Villeneuve et al. 1985)。

ウサギ
PEG-35ヒマシ油:ウサギに25%PEG-35ヒマシ油水溶液の4.0mL/kg(1.0g/kg)を、5日間連続して耳静脈に注射した。対照群には同量の生理食塩水を投与した。体重は毎日測定し、試験前および試験5日目に血液学的検査を行った。剖検は投与後、5、8、12日目に使用動物を分けて実施した。一般症状には毒性的変化はなかった。試験前値および対照群と比較した顕著な変化として、ヘモグロビン内容量の増加がみられた。剖検では、脂質蓄積やその他の有害な肉眼的変化はみられなかった。同様のデザインで別ロットのPEG-35ヒマシ油を4匹のウナギに投与し、7日目に剖検したところ、1匹に脾臓の肥大が見られたのみで、肉眼的、病理学的検査で異常はなかった。1) (BASF)

PEG-35ヒマシ油:0.5mLおよび0.1mLのPEG-35ヒマシ油をウサギおよびモルモットに筋注投与した(右・左わき腹に交互)(計10回)。筋肉の刺激性や、吸収性毒性はみられなかった。筋肉組織の顕微鏡検査では、再吸収性特徴の非特異的異物反応が投与部位に観察されたが、一過性のものであった。1) (BASF)

イヌ
Cremophor-EL:イヌに、0.5mL/kgのCremophor-ELを連日静注投与した。その結果、皮膚の潮紅、眼窩周囲浮腫および静注中や直後の首のゆれなど通常のアレルギー反応を示す症状を示唆する症状がみられた。血小板数および血清脂質値(総コレステロール、トリグリセライドおよび総脂質)の増加があった。反対に、血中αリポタンパク(%)の減少が認められた。組織病理学検査では、脾臓およびリンパ節において組織脂質の増加が見られた。3) (Dr. RT 1994)

PEG-30ヒマシ油、PEG-35ヒマシ油:ビーグル(雌雄各1匹/群)にPEG-30およびPEG-35ヒマシ油(0.5mL/kg)を30日間連日静注投与した。対照群には0.9%生理食塩水を投与した。毎日毒性の徴候を観察し、9、16、23および31日目に採血を行った。31日目に剖検を行った。一般症状として、両化合物投与群に眼の上の皮膚の浮腫性しわ、外耳の皮膚の紅潮および頭部のゆれや摩擦などがみられた。これらの変化は、PEG-35ヒマシ油群において顕著にみられた。最初の10日間のみ流涎および鼻漏が両群に見られた。PEG-30ヒマシ油投与群では血小板減少症が見られ、PEG-35ヒマシ油投与群では血小板数増加が観察された。総コレステロール、トリグリセリド、総脂質およびキロミクロンの増加が見られた。電気泳動パターンでは、α-リポタンパク(%)の減少があり、原点近辺に新しいピークが現れた。脂質およびリポタンパク値の変化はPEG-35ヒマシ油投与群のほうがより顕著であった。組織学的検査では、脾臓、リンパ節、肝臓および腎臓の多量脂質が観察された。1) (Hacker et al 1981)

PEG-35ヒマシ油:イヌに50%PEG-35ヒマシ油、1.0mLを筋注投与(右および左わき腹に交互)した(計11回)。皮膚の斑状発赤が投与部位に観察されたが、吸収性毒性や肉眼的病変は認められなかった。1) (BASF)

PEG-40ヒマシ油:イヌに0.04、0.64、5.0%PEG-40ヒマシ油を混餌法で90日間与えた。対照群には通常の食餌を与えた。対照群と比較して、体重増加、摂餌量、血液検査値および剖検データに異常は認められなかった。1) (Industrial Biology Research and Testing Laboratories)


遺伝毒性 (link to CCRIS)
PEG-35ヒマシ油:ICRマウスに0.03、0.3、3%PEG-35ヒマシ油を0.1mL/g 経口投与して、小核試験を実施した。結果は陰性であった。1) (Au et al 1991)


がん原性
マウス
PEGヒマシ油(分子量不明):A/Jマウスに2%PEGヒマシ油(分子量不明)の0.2mLを8週間投与した(投与群:20匹/群、陽性対照群:40匹/群)。1群は、1週間に3回8週間投与し、その他の群では、同じ投与レジメンで投与日には1日2回の投与をした。陽性対照群として、PEG-ヒマシ油+BaP(Benzo[α]pyrene)を投与した。ヒマシ油の両投与群において、腫瘍の有意な差は見られなかった。試験中に2匹のマウスのみが死亡した。腫瘍反応は2投与群間で差がなかったので、2群を併合してデータ処理した。被験物質投与群では、29%のマウスが肺腫瘍を有しており、1匹あたりの平均腫瘍数は0.32であった。へん平上皮細胞乳頭腫や非腺胃部の癌を有しているマウスはなかった。BaP投与群においては、死亡例が4例あり、マウスの61%が肺腫瘍を有していた。1匹あたりの平均腫瘍数は1.42で、92%のマウスが非腺胃部のへん平上皮腫瘍を有していた。1) (Robingson et al, 1987)

ラット
PEG-30ヒマシ油:SDラット(オス29匹)に10%PEG-30ヒマシ油の1mLを1週間に3回混餌法で16週間与えた。さらに、その後の10週間は1週間に1回同様に投与し、77週目にラットを屠殺した。以下の腫瘍がみられた;良性肝腫瘍(1)、ケラトアカントーマ(1)、下垂体腺腫(4)、前立腺の上皮内癌(1)、精巣のライディッヒ細胞癌(1)、耳の紡錘細胞肉腫(1)、膵島細胞癌(1)、脾臓リンパ腫(2)、乳腺繊維腫(1)、皮下粘膜脂肪腫(1)、皮下繊維腫(2)、および副腎腺腫(1)。しかしながら、これら腫瘍発現に関する背景データの正常範囲については記載がない。1) (Fiala et al 1987)


生殖発生毒性
マウス
PEG-30ヒマシ油:ICRマウスに、1%PEG-30ヒマシ油水溶液を飲水法で投与して、多世代生殖試験を行った。その結果、生殖能、同腹児数、出生後体重、胎児生存率に影響はみられなかった。1) (Lane 1982)

PEG-30ヒマシ油:アルビノICRマウスにPEG-30ヒマシ油を含む生食溶液(PEG-30ヒマシ油:生食=1:8)10mL/kgを経口投与した。対照群には生理食塩水を投与した。3週間の検体投与後に交配させ、妊娠期間および授乳期間中にわたって投与を行い、出生児の行動発達について評価した。計5つの同腹仔を使用した。各同腹仔は無作為に8匹に減少させ、誕生7日後から検体の経口投与を行った。7日から21日目に、出生児の体重を測定し、種々の神経行動学的発達を検査した。出生児は、緩やかな体重増加および神経行動学の発達を示した。1) (Uhing et al 1993)

PEG-35ヒマシ油:Swiss Webster妊娠マウスから妊娠8.5日目に胎児を取り出し、PEG-35ヒマシ油の130μ/mLを含む培地の中で24時間発育させた。培養終了後、胎児の生存性を観察し、生存していた胎児のみを用いて奇形性を検討した。44匹の胎児のうち、3例が神経管の欠損、顔面アーチおよび頭蓋回転の異常を有していた。平均体節数は24.2、平均体長(頭頂部から尻まで)は2.25で、平均たん白含量は1胎児につき86.5μgであった。1) (Uhing et al, 1993)


局所刺激性
皮膚刺激性
PEG-35ヒマシ油:アルビノウサギの毛剃りした背中や外耳に、PEG-35ヒマシ油を20時間以上塗付した。軽度な一過性の刺激性が報告された。1) (BASF)

Cremophor EL:マウスにCremophor EL(非希釈)0.05mLを皮下投与した場合、非常に小さな皮膚病変を起こしただけであった。病変は0.05cm2以下のもので、治療しなくても9日後には完全に消失した。以上より、Cremophor ELは、希釈せずに用いた場合に軽度な水疱形成性を有する。3) (Dr. RT 1994)

眼刺激性
PEG-35ヒマシ油:ウサギの眼の結膜裏に50%PEG-35ヒマシ油(0.05mL法、媒体:アセトン)を点眼した。軽度の刺激性と流涙が見られた。なお、30%アセトンは刺激性を示さなかった。1) (BASF)


その他の毒性
抗原性
皮膚感作性
PEG-35ヒマシ油:モルモットの背中に0.1%PEG-35ヒマシ油を10日間注射した(1x0.05mL;9x0.1mL)。その13日後、検体を頚部に投与した(1x0.05mL)。 感作誘導時には、投与部位に軽度の発赤(刺激性)がみられたものの、感作能は陰性であった。1) (BASF)

PEG-35ヒマシ油:感作誘導のためにモルモットの腹部に、アセトンに溶かした50%PEG-35ヒマシ油を10日間塗布投与した。その12日後に、5%PEG-35ヒマシ油を再度塗布した。12時間後に刺激性を観察した。感作誘導時には、皮膚の発赤(刺激性)が軽度見られたが、感作能は陰性であった。1) (BASF)

PEG-35ヒマシ油:感作誘導のためにDunkin-Hartelyモルモット(雌雄各10匹)の背中に、PEG-35ヒマシ油0.5mLを連続して10回皮内投与した。投与部位に密封性パッチを48時間貼った。無処置の12日間後に、0.5mLのPEG-35ヒマシ油を腹部へ再投与した。48時間後に肉眼的検査を実施したところ、疑わしい反応がオスの60%にメスの50%に見られた。しかし、顕微的検査では感作性の証拠は観察されなかった。以上より、PEG-35ヒマシ油は、感作性物質ではないと考えられた。1) (Tachon et al 1983)

アナフィラキシー様反応
Cremophore EL:13匹のイヌ(麻酔下)を用いて、20%Cremophor EL(4.3+0.92mL)を30mL/hrの速度で点滴を行った。7匹のイヌにおいて、Cremophor EL投与後に、胸腔肺コンプライアンス、心拍数、全身性動脈圧、肺圧(肺動脈圧、肺毛細血管楔入圧、網膜動脈圧)、心拍出量、血小板数および白血球数を測定した。測定時期は、点滴終了時、終了5、10、30および150分後である。残りの6匹のイヌにおいては、点滴終了時および点滴10、30、90および150分後に全身動脈圧、心拍出量、および血液量を測定した。さらに点滴前および点滴開始2、5、10、30、90および150分後に血漿ヒスタミンおよびカテコラミンも調べた。点滴終了時および点滴終了5、10および30分後に顕著な持続する著しい全身性動脈圧の減少(それぞれ、-68、-71、-70および-43%)および肺毛細血管楔入圧、網膜動脈圧および心拍出量の減少(点滴終了時に-78%、点滴終了150分後に-32%)がみられた。心拍および全身性血管抵抗性には著しい変化は認められなかった。点敵終了時、点滴終了5分後および10分後では、肺血管抵抗性は増加していた(それぞれ、+737、+548および+439%)。血漿容量は点滴終了10分後および30分後には減少していた(それぞれ、-28およびー30.5%)。胸腔肺コンプライアンスは減少した(点滴終了時、-46%)。血小板数および白血球数は顕著に減少した。血漿ヒスタミン(点滴開始10分後、+1214%)、血漿エピネプリンおよびノレピネフリンは、顕著な持続性の増加が認められた。6匹のイヌにおいては、皮膚の紅斑および手足および口輪の浮腫が発現した。これらの所見はヒトにおけるアナフィラキシー様反応および/あるいはアナフィラキシー反応の報告で観察されたものと非常に類似している。2) (JH Gaudy 1987)

腎臓毒性
PEG-35ヒマシ油:SDラットの単離腎臓を用い、200μLのPEG-35ヒマシ油を100mLの潅流溶液に加え、130分間潅流した。対照群として潅流溶液のみを用いた。腎血行動態および尿細管機能の連続測定を3時間かけて行った。PEG-35ヒマシ油投与では、3時間後著しい血管収縮が起こり、腎血流および糸球体濾過率が、それぞれ45%および28%に減少した。統計的に有意な増加が、腎臓血管抵抗性においてみられた。以上より、PEG-35ヒマシ油は、尿細管に直接的な毒性影響を有していると考えられた。1) (Hiersch et al 1987;Besarab et al 1987)

PEG-35ヒマシ油:Wisterラットに0.7mg/kg/分PEG-35ヒマシ油を2時間静注インフュージョン投与した。血圧には影響がなかったが、腎動脈の血管収縮がおこり、腎血流および糸球体濾過量が50%減少した。1) (Thiel et al 1986)

細胞毒性
PEG-30ヒマシ油:ラット肝細胞を0.063%−1.0%PEG-30ヒマシ油で5時間処理したところ、細胞損傷性が、0.25%から1.0%濃度で観察された。以上より、最大無作用は、0.125%であった。1) (Nassberger et al 1991)

PEG35ヒマシ油:ブタ、腎上皮細胞、LLC-PKを用いて0.01-0.1%で処理したところ、細胞内形態への異常がみられた。1) (Nassberger et al 1991)

ヒスタミン遊離作用
PEG-30ヒマシ油、PEG-35ヒマシ油:イヌに静注投与したところ、ヒスタミン遊離作用を示した。PEG-35ヒマシ油はブタにおいてもこの作用がみられた。1) 

アジュバント能
PEG-35ヒマシ油:アジュバント能を3つの評価系(モルモット-BSA-皮膚反応、Swissマウス-SRBC−足蹠の腫れ、Swissマウス-SRBC-ヘマグルチニンの力値)で調べたところ、PEG-35ヒマシ油は強力な細胞免疫のアジュバントであった。1) (Descotes et al. 1983)


ヒトにおける知見
20%PEG-35ヒマシ油に溶解した薬剤の静注投与試験を過去に受けた事がある8人の男性が、PEG-35ヒマシ油、0.15mL/kgを10秒間にわたって静注投与された。ヒスタミン分析のために、注射1、5、10、20および30分後に採血を行った。血圧および心拍数を観察した。血清ヒスタミンの増加、血圧や心拍数への影響はなかった。1)(Doenicke et al., 1973)


引用文献
1) Anonymous Final report on the safety assessment of PEG-30, -33, -35, -36, and -40 castor oil and PEG-30 and -40 hydrogenated castor oil, Int. J. Toxicol. 1997; 16(3): 269-306

2) JH Gaudy The effects of cremophor EL in the anaesthetized dog, Can J Anaesth 1987; 34(2): 122-129

3) Dr. Rt Pharmacology and toxicology of Cremophor EL diluent Ann. Pharmacother 1994; 28(Sup. 5): 11-14





   



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