日本医薬品添加剤協会
Safety Data
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和名 マルチトール
英文名  Maltitol

CAS 585-88-6 (link to ChemIDplus)
別名 
収載公定書    外原規(2006) EP(5)
用途 甘味剤、賦形剤

JECFAの評価 (link to JECFA)
(1日許容摂取量(ADI)を特定しない。


単回投与毒性
該当文献なし


反復投与毒性 (link to TOXLINE)
ラット
マルチトール約87%含有している市販製剤をCrl:CD(SD)BRラットに0, 0.5, 1.5, 4.5 g/kg bw/dayの用量で投与し、長期毒性と発癌性の組合せ試験を行った。長期投与試験では、ラットに52週間(20匹/性/群)、また癌原性試験では、106週間(50匹/性/群)これらの食餌を与え、その後屠殺した。

両試験のラットは、毎日、健康状態や行動変化の徴候を観察した。摂餌量、体重は、最初の12週間は週に1度、その後試験終了までは4週に1度、試験物質投与直前に記録した。ラットは、2日に1度、死亡の観察を行い、観察された死亡又は瀕死状態での屠殺は、試験終了時の屠殺と同様、剖検を行い、臓器を摘出し重量を測定し、組織学的検査を行った。長期投与試験では、盲腸と大腸直径を測定した。長期投与試験の10匹/性/群は、試験開始前と13、26、52週に検眼鏡検査を行った。また血液学的検査、血液化学検査、尿検査を10匹/性/群に14, 26, 51週で行った。

長期投与試験結果、中等度と高用量群では死亡したラットはいなかった。コントロール群で3匹、低用量群で4匹が死亡したが、ほとんどは偶発的な死亡であり、マルチトール投与による死亡ではなかった。マルチトール投与に関連する臨床的徴候は観察されなかった。また投与は体重に影響を与えなかった。雄において時々、摂餌量の変化がみられたが、明らかな傾向はなかった。平均摂餌量は高用量群の雌で12週と52週に他の群と比較し有意に減少した。投与に関連した目の異常は観察されなかった。血液学的パラメーターに時々変化がみられたが、中等度投与量群の雌における白血球減少以外は、これらの変化は全ての観察期間にみられていた。血液化学検査及び尿検査でしばしば有意な変化がみられたが、これらの変化は重要なものはなく、またほとんどが用量依存的ではなかった。肉眼的または組織学的検査では、投与に関連した影響はみられなかった。盲腸直径の有意な上昇が高用量群の雄で観察されたが、これは20匹中3匹における高値によるものであった。低用量及び高用量群の雌にコントロール群と比較し盲腸直径の減少傾向がみられた。本試験における最大無作用量(NOEL)は、高用量である4.5g/kg bw/dayであった。1) (Conz & Fumero, 1989)


遺伝毒性 (link to GENE-TOX)
2種のマルチトール、水添グルコースシロップと結晶マルチトールについて、短期試験による遺伝毒性試験を行った。細菌復帰試験において、マルチトールはラット肝細胞S9存在下及び非存在下において0.5-50 mg/plateの濃度で Salmonella typhimurium TA98, TA100, TA1535, TA1537, TA1538及びEscherichia coli WP2/pKM101のどの試験株についても復帰突然変異を引き起こさなかった。小核試験では、2種のマルチトール投与後のマウス骨髄において血球の小核出現頻度は有意に上昇しなかった。2)(Takizawa Y. et al., 1984)


がん原性
ラット
マルチトール約87%含有している市販製剤をCrl:CD(SD)BRラットに0, 0.5, 1.5, 4.5 g/kg bw/dayの用量で投与し、長期毒性と発癌性の組合せ試験を行った。長期投与試験では、ラットに52週間(20匹/性/群)、また癌原性試験では、106週間(50匹/性/群)これらの食餌を与え、その後屠殺した。

両試験のラットは、毎日、健康状態や行動変化の徴候を観察した。摂餌量、体重は、最初の12週間は週に1度、その後試験終了までは4週に1度、試験物質投与直前に記録した。ラットは、2日に1度、死亡の観察を行い、観察された死亡又は瀕死状態での屠殺は、試験終了時の屠殺と同様、剖検を行い、臓器を摘出し重量を測定し、組織学的検査を行った。長期投与試験では、盲腸と大腸直径を測定した。長期投与試験の10匹/性/群は、試験開始前と13、26、52週に検眼鏡検査を行った。また血液学的検査、血液化学検査、尿検査を10匹/性/群に14, 26, 51週で行った。

癌原性試験の結果、死亡率は投与により影響がなかった。投与に関連した臨床的徴候は観察されなかった。マルチトールを投与した全ての雄ラットと高用量群の雌の体重は、それぞれのコントロール群の体重と同様であった。低用量及び中等度投与量群の雌の平均体重は、コントロール群よりもわずかに低く、時々統計学的に有意であった。摂餌量は投与により影響がみられなかった。腸、盲腸を含むどの臓器にも肉眼的、病理学的検査で投与に関連した変化はみられなかった。副腎の塊または小節がまれに観察されたが、用量依存的ではなく、最も高い頻度は、同じ試験室同様に行われたラットでの2年間の発癌性試験で観察されたコントロール発現率の範囲内であった。副腎において投与に関連した組織病理学的変化がみられた。表1に結果をまとめた。良性及び悪性の褐色細胞腫が別々又は同時に、高用量群の雌と雄両方においてコントロール群と比較して高頻度で発生した。更に、全ての投与群において軽微から中等度の延髄過形成がコントロール群と比較して高頻度で発現していた。傾向性検定では雌で有意に上昇しており、高用量の雌とコントロール群との間で有意差がみられた。

表1 ラット発癌性試験における副腎にみられた組織病理学的変化
用量1
  (g/kg bw/day)
0
0.5
1.5
4.5
0
0.5
1.5
4.5
<褐色細胞腫>
良性
8
4
10
20
2
2
4
10
悪性
6
12
4
10
2
2
2
4
合計
14
16
14
30
4
4
6
14
延髄過形成
24
32
38
32
14
22
24
34

雌に乳腺癌の発現率上昇がみられた。; コントロール群4/50 (8.0%), 低用量群2/43 (4.6%), 中等度投与量群8/50 (18.6%,P=0.054), 高用量群10/50 (20.0%, P=0.044)。 傾向は有意差(P=0.013)がみられたが、高用量群での発現はコントロール群よりも有意差をもってまれであった。乳腺腫と線維芽腫の発現率上昇はみられなかった。乳腺癌の発現率は、同じ試験室で1978年から1989年の間に行われた7試験での雌ラット乳腺癌発現率(0 to 22%)のコントロール範囲内であった。3) (Conz & Maraschin, 1992).


生殖発生毒性  (link to DART)
局所刺激性
その他の毒性


ヒトにおける知見 (link to HSDB)
73歳の時に糖尿病と診断された87歳女性。1998年3月に腹部鼓張と食欲低下発現。患者はグリベンクラミド5mg/日とacarboseを服用しており、1997年から1日100gのマルチトールを常用していた。患者は、麻痺性イレウスがあり、腸壁嚢状気腫(PCI)を併発していると診断された。この症状はダイエットの中止またはacarboseとマルチトール使用中止によりすぐに回復した。患者の状態は、二糖類とマルチトールの発酵により発生したガスによるものと考えられた。小腸運動性の低下は既往歴の糖尿病性自律神経神経症及び甲状腺機能低下症によるものであろう。患者の臨床経過は麻痺性イレウスとPCIはαグルコシダーゼ阻害剤のまれな副作用として記載されており、本薬剤は、消化されない代替糖を摂取している患者への使用は、注意が必要である。4) (Azami Y., 2000)

チョコレートに含まれているマルチトール摂取の消化管への影響はほとんど知られていない。本試験は、マルチトールが消化管症状を増加させるか、また消化管症状は用量依存的であるかを確かめるために行った。マルチトールによる呼気水素排出が用量依存的かを確認した。

18-23歳の健常人20例に白糖40g、白糖10g+マルチトール30g、マルチトール40gを含むチョコレートを絶食後(チョコレート摂取前夜の22時から飲食せず)または絶食せずに摂取させ、二重盲検クロスオーバー試験を行った。絶食と非絶食で症状に違いはみられず、それぞれの投与群における症状に及ぼす影響もみられなかった。30gマルチトールは白糖摂取と比べ症状に有意な違いはみられなかったが、40gマルチトールは、軽微な腹鳴(P<0.05)と軽微な鼓腸(P<0.01)がみられたが、中等度または重篤な症状ではなかった。30または40gマルチトールは、白糖摂取と比べ有意な便通増加はみられなかった(P>0.05)。別の試験において18-24歳の健常人に呼気H2試験の前に同様の試験物質を摂取させた。40gマルチトール入りチョコレートは、30gマルチトール(P<0.05)及び白糖(P<0.01)よりも総呼気H2排出が大きかった。また30gマルチトールは、白糖(P<0.05)よりも総呼気H2排出が大きかった。チョコレート中の30gマルチトールは若年成人に有意な症状を引き起こさなかったが、40gマルチトールは、軽微な腹鳴と放屁を引き起こしたが、通便の増加はなかった。呼気H2排泄の上昇は、多価アルコールの大腸内発酵を示唆するものである。5) (Storey DM et al., 1998)

異なる多価アルコールをミルクチョコレートに混ぜて摂取したとき不耐症状に違いがあるかを検討した。また、症状が用量依存的であるかどうかを検討した。ソルフォード大学の学生から18-24歳の59例の健常人を募り無作為二重盲検クロスオーバー試験を行った。被験者は白糖、イソマルト、ラクチトール、マルチトール又は白糖とイソマルト、白糖とラクチトール、白糖とマルチトールの混合物 (10:30 w/w) それぞれ40 gを含有する100gのミルクチョコレートを摂取した。1週間の間隔をあけて、それぞれのチョコを朝食として摂取した。被験者は、鼓腸、腹鳴、疝痛、消化管運動及び下痢の頻度と重篤度を記録した。30 g または 40 gのラクチトール摂取は、白糖含有チョコレートと比較し、全ての症状の頻度及び重篤度が有意に高かった(P <0.01)。同様に40gのイソマルトも軽微な腸弛緩(P <0.01)を含む全ての症状の発生率が高かったが、ラクチトールと異なりどれも非重篤なものとして評価された。40gマルチトールの摂取は、鼓腸、腹鳴、疝痛(P <0.01)で40gイソマルトよりも不耐症状が低く、症状は軽微と評価された。30gまでの減量により、軽微な鼓腸を除く全ての症状が減少した。マルチトールは、1日30g(P = 0.32) または40 g (P = 0.13)のどちらを摂取したときも腸弛緩の影響はみられなかった。本試験は、イソマルト、ラクチトール、マルチトールをミルクチョコレートに入れて摂取した後にみられる消化管症状において有意な違いがみられたことを示した。しかしながら、これら3種の多価アルコール全てで、症状の発生率、重篤度は用量依存的であった。6) (Koutsou GA. et. al., 1996)

糖アルコールを含む甘味料摂取の消化管耐性を評価するために二重盲検無作為クロスオーバー試験を行った。12例の健常人に彼らのいつもの摂取パターンをシュミレーションするために、マルチトールまたは白糖を時々(どちらかの糖を週に1度)または定期的に(第2期:9日間毎日)のどちらかで終日摂取させた。どちらの摂取パターンにおいても1日の糖摂取量は、下痢または重篤な消化管症状が発現するまで増量し、その量を閾値とした。第1期(時々摂取)では、平均閾値はマルチトールで92±6 g、白糖で106±4 gであった (P=0.059) 。消化器症状の平均重篤度は、それぞれ1.1と1.3であった(P=NS)。下痢はそれぞれ6例、1例にみられた(P=0.035)。第2期(定期的摂取)では、平均閾値はマルチトールで93+/-9 g、白糖で113+/-7 gであった(P=0.008)。消化器症状の平均重篤度は、それぞれ1.7と1.2であった(P=NS)。しかしながら、下痢はそれぞれ8例と3例にみられた(P=0.04)。マルチトールと白糖の閾値は、2つの期間のあいだで違いはみられなかった。我々の試験条件下では、白糖と比較すると、@マルチトールの時々摂取または定期的摂取は重篤な消化器症状をひきおこさなかった。Aマルチトール摂取の両パターンにおいて、下痢の発現率は高かったが、マルチトールの普段の使用量よりもかなりの高用量でのみみられていた。Bマルチトールは9日間の摂取期間後に腸内細菌叢の適応現象は引き起こさなかった。7) (Ruskone-Fourmestraux A, et al., 2003)

20例の健常人(男性10例、女性10例)及び6例の糖尿病患者(男性3例、女性3例)にマルチトールまたはソルビトール0.8g/kgを摂取させた。マルチトールとソルビトールによりそれぞれ75及び95%に下痢が発現した。ほとんどの被験者の便は水様便であった。摂取後2時間のそれぞれの甘味料の血中濃度は、0.3mg/dLよりも低かった。摂取後2時間のNa、K、Cl、BUN、クルコース、インスリンの血中濃度に変化はみられなかった。8) (Koizumi N et al., 1983)


この資料の一部は食品・医薬品共用添加物の安全性研究の成果を引用した.


引用文献
1) CONZ, A. & FUMERO, S. (1989). Combined chronic toxicity/carcinogenicity study in Sprague Dawley Crl:CD(SD)BR rats treated with the test article MALBITR (crystal powder) administered at the dosages of 0, 0.5, 1.5, and 4.5 g/kg/day in the diet: chronic toxicity study. Unpublished report from RBM, Istituto di Richerche Biomediche, Ivrea, Italy. Submitted to WHO by Cerestar Research & Development, Vilvoorde, Belgium.

2) Takizawa Y. et al.; Mutat Res. 1984 137(2-3):133-7

3) CONZ, A. & MARASCHIN, R. (1992). Combined chronic toxicity/carcinogenicity study in Sprague Dawley Crl:CD(SD)BR rats treated with the test article MALBITR (crystal powder) administered at the dosages of 0, 0.5, 1.5, and 4.5 g/kg/day in the diet: carcinogenicity study. Unpublished report from RBM, Istituto di Richerche Biomediche, Ivrea, Italy. Submitted to WHO by Cerestar Research & Development, Vilvoorde, Belgium.

4) Azami Y.; Intern Med. 2000, 39(10): 826-9

5) Storey DM et al.; J Nutr. 1998 128(3); 587-92

6) Koutsou GA. et. al.; Eur J Clin Nutr 1996 50(1): 17-21

7) Ruskone-Fourmestraux A. et al.; Eur J Clin Nutr. 2003 Jan; 57(1):26-30

8) Koizumi N et al.; CHEMOSPHERE. 1983. 12 (1). 117-124





   



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