日本医薬品添加剤協会
Safety Data
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和名 酸化チタン
英文名 Titanium Oxide

CAS 13463-67-7 (link to ChemIDplus), (link to JAN DB), (link to JANe DB)
別名 二酸化チタン(111726)、Titanium Dioxide
収載公定書 局方(JP17) 食添(JSFA-IX)  USP/NF(26/21)  EP(4)
用途 基剤,懸濁(化)剤,光沢化剤,コーティング剤,充填剤,着色剤,糖衣剤,賦形剤,分散剤,流動化剤


単回投与毒性 (link to ChemIDplus)
該当文献なし


反復投与毒性 (link to TOXLINE)
ラット
ラットに酸化チタンの01050又は250mg/m32年間(16時間、1週間に5日間)噴霧吸入させた。いずれの群においても臨床的に異常な兆候、体重変化及び過剰な死亡例は見られなかったが、肺炎、気管支炎及び鼻炎の頻度が投与群で多少増加した。塵埃を蓄積したマクロファージ(塵埃細胞)の肺胞管への浸潤及びII型肺細胞の過形成を伴った肺胞が特徴的である肺の反応は、10mg/m3群ではほとんど見られなかった。しかし、50及び250mg/m3群では用量依存的に塵埃細胞の蓄積、マクロファージの泡沫化、II型肺細胞の過形成、肺胞蛋白症、肺胞の細気管支化、コレステロール肉芽腫、巣状胸膜炎、気管支リンパ節への塵埃蓄積等が見られ、肺胞壁の一部には線維化が認められた。250mg/m3群における大量の塵埃蓄積と関連ある肺の障害は、肺でのクリアランスを越えた結果であると思われる。同群では気管支肺胞腺腫、のう胞性のケラチン化した扁平細胞腫が発生したが、10及び50mg/m3群では肺に腫瘍は認められなかった。1) (Lee et al., 1985)

フィッシャー344系の雌雄のラットに、酸化チタンでコートした雲母を012、又は5%含有する飼料を130週間供与した。生存率、体重増加、血液学的及び臨床化学的パラメーター又は病理組織所見には生物学的に意味ある一定の変化は見られなかった。結論として酸化チタンでコートした雲母を5%という高濃度を食餌中に混入して供与しても何ら毒性もなく、発癌性も見られなかった。2) (Bernard et al., 1990)

イヌ
酸化チタンの塵埃は一般に実験動物及びヒトにとって“有害塵”と見なされている。今回の実験では16匹のイヌに酸化チタン塵を9-15ヶ月間気管内に吸入させた。X線エネルギー分析付の走査型電子顕微鏡の観察で、実験に使用された塵粒子及び肺病巣の塵粒子の元素組成はほぼ純粋のチタンであることが分かった。肺においてはチタン塵は主に細気管支及び隣接の肺胞に蓄積していた。肺の反応としては軽度の肺胞炎、中葉の肺気腫、肺胞の巣状虚脱及び線維芽細胞過形成(酸化チタン塵周囲に若干のコラーゲン線維を有する)が見られた。電子顕微鏡での観察では肺胞マクロファージがリソゾーム中に大量の塵粒子を含有しているのが多数認められた。I型肺細胞はほとんど消失し、I型肺細胞そのものは過形成を呈していた。肺胞の上皮下基底膜は著しく肥厚し、コラーゲン線維の束が細胞間隙に形成されていた。これらの所見は、酸化チタン塵が肺組織に大量蓄積する場合には肺線維症を惹起する物質の一つであることを示唆している。3) (Zeng et al., 1989)


遺伝毒性 (link to CCRIS),  (link to GENE-TOX)
酸化チタン粒子の光遺伝毒性試験を、マウスリンパ腫L5178Y細胞を用いた細胞ゲル試験、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)を用いた突然変異試験、L5178Y細胞を用いた突然変異試験及びチャイニーズハムスターCHL/IU細胞を用いた染色体異常試験で実施した。紫外線/可視光線照射がなければ酸化チタン粒子は遺伝毒性を示さないか、あっても非常に弱い。しかし、光照射すると酸化チタンは細胞ゲル試験と染色体異常試験で有意な遺伝毒性を示した。4) (Nakagawa et al., 1997)

チャイニーズハムスターの卵巣細胞-K1CHO-K1)に酸化チタン(TiO2)を注入し、姉妹染色体交換(SCE)及び小核(MN)誘発に及ぼす影響を検討した。0-5μMの非致死濃度で24時間TiO2処理したCHO-K1細胞でのSCE頻度は有意且つ用量依存的に増加した。0-20μM濃度範囲で24時間処理した時の通常のMN試験ではMN頻度は軽度上昇に留まったが、分裂阻止MN試験では2核細胞1000個中のMN数は有意且つ用量依存的に増加した。これらの結果はTiO2が遺伝毒性物質であることを示唆している。5) (Luet al., 1998)

シリアンハムスター胎仔(SHE)細胞を用い小核形成をモニターすることにより超微細酸化チタン(UF-TiO220nm以下)及び微細酸化チタン(F-TiO2200nm以上)の染色体異常誘発能について検討した。また、UF-TiO2処理した細胞のアポトーシスについても検討した。小核試験ではSHE細胞の小核が有意に増加した。UF-TiO21.0μg/cm2)の12時間処理では細胞1000個中の小核の平均個数は24.5個、24時間では31.31個、48時間で30.8個、66時間で31.2個、72時間で31.3個であった。固定した細胞にビスベンズイミド染色を行うと典型的なアポトーシス構造が見られ、透過型電子顕微鏡でも典型的なアポトーシス像が観察された。6) (Rahman et al., 2002)


がん原性 (link to CCRIS)
BM
系雄マウスに、2mgの酸化チタン(TiO2)生理食塩水懸濁液を18ヶ月間以上に亘って腹腔内投与し、32匹のマウスに4種の新生物が見られた。同様の期間、生理食塩水のみを腹腔内投与した対照群においても30匹に4種の新生物が見られた。このことは腫瘍発生とTiO2処置との間には有意な相関はなく、TiO2には発癌性のないことを示している。末梢組織では投与検体が腸管、腹腔壁及び腹筋に巣状に蓄積しており、また、腹膜には透明な膜に覆われて検体が付着蓄積していたが、TiO2に対する異物反応(マクロファージの出現や結合織の形成等)は認められなかった。1例においては大量の検体を蓄積した筋組織は慢性筋肉炎に進展していた。7)Bischoff & Bryson, 1982)


生殖発生毒性 (link to DART)
該当文献なし


局所刺激性
該当文献なし


その他の毒性
光毒性
DMPO
Spin trap剤)を含有する水に溶解した酸化チタン(アナターゼ型、0.45μ)を紫外線照射(320nm)してESR(Electron Spin Resonance)法にてヒドロキシラジカルを検出した。牛胸腺DNAと酸化チタンを含む溶液に紫外線(320-400nm)を照射するとグアニン塩基の水酸化が起こり、この水酸化の程度は紫外線照射量と酸化チタンの量に依存する。ヒト皮膚の線維芽細胞を10μg/m2の酸化チタンで18時間インキュベートした後に紫外線照射(0-58KJ/m2)すると照射量に依存して光細胞毒性が見られた。同様に処理した線維芽細胞のRNAはグアニン塩基の酸化を指標にして有意なレベルの光酸化を受けていたが、DNAには酸化的障害は検出されなかった。これらの結果は、核酸が酸化チタンによる光酸化障害のターゲットであることを示唆しており、酸化チタンがフリーラジカル生成を光触媒するとの見解を支持するものである。8) (Wamer et al., 1997)

酸化チタンは紫外線照射によりヒドロキシラジカル(OHラジカル)を発生することが報告されている。種々の結晶構造や大きさの異なる酸化チタン(TiO2)を紫外線照射してOHラジカルの発生をESR(Electron Spin Resonance)で分析した。OHラジカル生成は結晶の大きさと形態によって変わる。アナターゼ型では照射量に対応してOHラジカルを発生させるが、ルチル型(大きさは90nm)ではOHラジカルの発生は少なかった。結晶の大きさはOHラジカル生成に大きな影響を与えるが、その至適サイズはアナターゼ型とルチル型とでは異なる。TiO2の紫外吸収スペクトルは結晶形態や大きさで異なるが、紫外吸収とOHラジカル生成との間に関連は見られなかった。酸化チタンー紫外線照射による細胞毒性はチャイニーズハムスターの卵巣細胞(CHO)で検討した。細胞毒性とOHラジカル生成との間には有意な相関が見られた。紫外線照射によるESRを用いてのOHラジカル生成量の測定は、結晶構造やサイズの異なる酸化チタンのOHラジカル生成や細胞毒性に及ぼす影響を明確にするのに必要である。9) (Uchino et al., 2002)

吸入による肺毒性と生化学所見
酸化チタン(TiO2)は結晶格子の違いによりアナターゼ型とルチル型とがある。ルチル型は不活性であるがアナターゼ型は溶血活性があり肺からのクリアランスが遅いため、その毒性について検討した。ルチル又はアナターゼ型のエアゾルをラットに噴霧し、噴霧後132日間に亘ってTiO2の消失パターンを検討したところ、肺からの粒子クリアランスのT1/2はアナターゼ型で51日、ルチル型で53日と両者間の違いはほとんどなかった。ルチル又はアナターゼ型をラット当り0.5又は5.0mgを気管内に投与後、肺洗浄液中の全細胞数、肺胞マクロファージ、パーオキシダーゼ陽性肺胞マクロファージ、多核白血球を比較したところ、両者で同様の結果が得られた。結論として、TiO2の結晶格子の相違が酸化チタン粒子の生物学的影響に変化を与えるとの示唆は得られず、また、アナターゼ型、ルチル型のいずれも“有害塵”であることが示唆された。10) (Ferin & Oberdorster, 1985)

ラットの気管内にシリカ(SiO2)又は酸化チタン(TiO2)5-100mg/kg吸入させた後1714及び28日目に、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の細胞数及び肺胞マクロファージ(Mφ)のサイトカイン遊離を検討した。SiO2TiO2は共に用量依存的に好中球、リンパ球及び肺胞Mφを増加させた。この反応はSiO2でより強く、且つ持続的であった。50mg/kg以上のSiO2はいずれの時点においても肺胞MφからのIL-1及びTNFの遊離を促進したが、低用量のSiO2では反応は一過性であるか又はサイトカイン遊離に影響を与えなかった。一方、TiO2では肺胞MφによるIL-1遊離は見られず、TNFの遊離促進も50mg/kg以上で一過性に見られたに過ぎない。SiO2TiO2in vitroでリポポリサッカライド存在下に肺胞MφからのIL-1及びTNFの遊離を増加させる。28日目の組織病理検査ではSiO2吸入による間質性の炎症が用量依存的に認められた。本所見はTiO2ではより軽度であった。50mg/kg以上のSiO2では肉芽腫性の反応を惹起した。この肉芽腫性の炎症への進展はSiO2群にのみ認められ且つ肺胞Mφからの持続的なIL-1遊離との関連から、SIO2による肉芽腫形成にはIL-1が関与していることを示唆している。SiO2による肺胞MφからのIL-1及びTNFの遊離促進活性はTiO2よりも強く、SiO2関連のより強い炎症と肺毒性に反応しているように思われる。11) (Driscoll et al., 1990)

ラットの気管内に50mg/m3の結晶性シリカ(SiO2)又は酸化チタン(TiO2)16時間、5日間吸入させた。吸入後71428及び63日後に気管支肺胞洗浄液(BALF)中の細胞数、細胞種及びその生育力、乳酸脱水素酵素(LDH)、総タンパク量、N-アセチルグルコサミニダーゼを測定した。BALF中の肺胞マクロファージ(Mφ)はリポポリサッカライド(LPS)存在又は非存在下に培養し、IL-1及びフィブロネクチン遊離を測定した。組織形態学的な検査は28及び63日目に行った。ラット肺には1.8-1.9mgの鉱物塵が蓄積していた。肺からのSiO2クリアランスはTiO2に比し有意に少なかった。SiO2BALF中の好中球(162863日目)、総タンパク量(2863日目)、LDHとリンパ球(63日目)を増加させた。また、SiO2は肺胞Mφからのフィブロネクチン(63日目)、LPS誘発IL-1(全ての時点)遊離を促進した。しかし、TiO2BALF中の生化学的、細胞パラメーター及び肺胞Mφの分泌活性には影響を与えなかった。組織病理学的にはSiO2吸入群で極微の間質性炎症を示したが、TiO2群では有意な変化は認められなかった。12) (Driscoll et al., 1991)

ラット肺にシリカを注入しヒドロキシラジカル(OHラジカル)生成と急性肺炎との関連をin vivoで検討し、酸化チタンと比較した。鉱物塵粒子を肺に噴霧注入した7日後に肺を摘出しOHラジカルを測定した。その結果、シリカ注入ラット肺では酸化チタン注入群よりも多くのOHラジカルが生成された。肺の急性炎症反応もシリカ注入群の方が強かった。結論として、in vivoにおいてもシリカは酸化チタンに比しOHラジカル生成能は強く、これが急性の肺の炎症とも関連することが判明した。13) (Schapira et al., 1995)

超微粒子の酸化チタン(TiO2-D20nm)の吸入は、より大きな粒子の酸化チタン(TiO2-F250nm)に比し、より大きな肺炎症反応を引き起こす。フィッシャー系344雄性ラットに3ヶ月間(16時間、週5日間)、下記被検物を曝露した。@濾過した空気(対照群)、ATiO2-F22.3mg/m3)、BTiO2-D23.5mg/m3)、C結晶二酸化ケイ素(SiO2、陽性対照、粒子径800nm1.3mg/m3)。BとCのラットは曝露終了6ヶ月及び12ヶ月後に剖検し、肺の組織化学的及び免疫組織化学的分析を行い肺への影響を検討した。SiO2に曝露した6ヵ月後のラットは中等度の巣状間質性線維症及びやや激しい巣状肺胞炎を来たした。TiO2-Dに曝露したラットは線維症はより軽度であった。TiO2-F群では線維症は最も軽度であった。曝露1年後にも線維症はなお存在したが、SiO2群では軽減化が認められ、TiO2-DおよびTiO2-F両群では無処置群のレベルにまで回復していた(但し、粒子を保持した肺胞マクロファージ数の増加は持続していたが)。14) (Baggs et al., 1997)

シリカ(SiO2)、酸化チタン(TiO2)は肺胞マクロファージ(Mφ)に対し濃度依存的な細胞毒性を示し、細胞の生存活性の消失及び細胞中のATPレベルの低下を来たす。SiO2の方が細胞毒性はより強く、一方TiO2の方はATPレベル低下に対してはより強い。SiO2LDHの遊離を促進させるがTiO2にはこの作用はない。TiO2はコハク酸による酸素消費を抑制するがSiO2は著明な変化を示さない。スカベンジャー受容体のリガンドのひとつであるポリイノシン酸は、TiO2によるATPレベルの低下を阻止するがSiO2によるATP低下を阻止しない。これらの結果は、SiO2TiO2は共に肺胞Mφに細胞毒性を引き起こすが、そのメカニズムは異なったものによると思われる。15) (Kim et al., 1999)

表面を修飾(疎水性又は親水性)した微粒子(180nm)又は超微粒子(20-30nm)の酸化チタン(TiO2)1mg又は6mg、表面用量(surface dose)として100500600又は3000cm2をラットの気管内に16時間注入した。炎症反応と酵素レベルは表面用量と有意な相関を示した。粒子表面を疎水性(メチル化したもの)にしたTiO21mg投与したラットでは、親水性TiO2(微細又は超微細)1mgを注入したラットに比し気管支肺胞洗浄液(BALF)中の総細胞数の減少と好中球数の増加が見られたが有意な変化ではなかった。高用量の6mg又は表面用量600cm2以上の投与では、微細粒子、超微細粒子間及び疎水性、親水性間に差は見られなかった。低用量(1mg)投与BALF中の細胞充実性の相違はケモカインMAP-2の変化を反映しているがマクロファージのサイトカインのレベルには差は見られなかった。好中球の増加にもかかわらず、洗浄液中への酵素漏出を指標とした場合には細胞障害は殆ど起こっていない。結論として粒子表面の疎水性よりは表面積の方がTiO2の急性肺炎症を規定している要因として大きいように思われる。16) (Hohr et al., 2002)

形態の異なる2種の酸化チタン(TiO2)の細胞毒性について、ユニークな磁気分析を用いてマクロファージ(Mφ)で検討し、通常用いられる乳酸脱水素酵素(LDH)の遊離、アポトーシスの測定及び形態学的な観察と比較した。フィッシャー系ラット(F344)の気管支肺胞洗浄により得た肺胞Mφを、磁気分析の指標としてのFe3O4及び繊維状または微粒子状のTiO218時間in vitroでインキュベーションした。対照群と微粒子状TiO2群では、外部磁場を除去した後の残余磁場の速やかな減弱化即ち“リラクゼーション”が見られた。これに対し繊維状のTiO2を曝露した肺胞Mφでは残余磁場減弱化の遅れが見られた。無血清培地中へのLDHの遊離は繊維状TiO2曝露Mφでは用量依存性に有意に増加したが、微粒子状TiO2曝露MφではLDH遊離は無視できる程度のものであった。DNA梯子(DNA ladder)検出法及び形態学的所見から、60μg/mLの繊維状又は微粒子状のTiO2に暴露したMφではアポトーシスは観察されなかった。電子顕微鏡観察では繊維状TiO2曝露Mφでは空胞変性と細胞表面の障害が観察されたが、微粒子状のTiO2曝露Mφでは有意な変化はみられなかった。これらの結果は酸化チタンの細胞毒性は物質の形態に依存することを示唆している。17) (Watanabe et al., 2002)

雌のマウス、ラット及びハムスターに1050又は250mg/m3の色素酸化チタン粒子(p-TiO2)を13週間(16時間、週に5日間)吸入させた。回復群は被検物曝露終了後41326又は52週間後に行った(但し、ハムスターは46週後)。各時点でp-TiO2の肺、リンパ線への蓄積状況及び炎症、細胞毒性、肺細胞増殖及び病理組織学的な変化を指標として肺の反応を検討した。各時点での肺及びリンパ腺に蓄積されているp-TiO2は濃度依存的であり、肺への蓄積量はマウスで最大であった。ラット、ハムスターでは同程度であった。これらのデータは肺への過負荷量はラット、マウスでそれぞれ50及び250mg/m3のレベルで達することを示唆している。今回の条件下ではハムスターはラット、マウスよりもp-TiO2粒子をクリアーする能力に優れていた。肺の病理組織所見から両種の動物でp-TiO2粒子の蓄積パターンには濃度依存的な差が見られた。炎症は50250mg/m3曝露群のすべての動物種で認められた(マクロファージ、好中球の増加、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の炎症の可溶性指標、ラット>マウス、ハムスター)。マウスとラットではBALF中の炎症反応は最高用量群では回復試験期間中も対照群に比し高いレベルに留まっていた。これに対しハムスターでは肺からのクリアランスが速いため、炎症は最高用量群でもやがては消失した。肺の病変はラットで最も重く、進行性の上皮及び線維性増殖変化が250mg/m3群で見られた。上皮の増殖性変化に伴って間質にはp-TiO2粒子の蓄積と細胞中隔の線維化が見られた。結論として吸入したp-TiO2粒子に対する肺の反応性には種差があり、今回の条件下ではラットはマウス、ハムスターに比し、シビアで持続する肺の炎症反応を惹起した。また、ラットは高濃度のp-TiO290日間曝露に対する反応で進行性線維化病変及び肺胞上皮の異形成の進展がユニークであった。18) (Bermudez et al., 2002)

4
種の超微細粒子(カーボンブラック、コバルト、ニッケル、酸化チタン)を用いて、超微細粒子の毒性及び前炎症性変化に対する微細粒子の表面積、化学組成、粒子径及び表面の反応性を検討した。カーボンブラック(UFCB)及びコバルト(UFCo)の125μgをラット肺へ注入すると48時間後に気管支肺胞洗浄液(BALF)中に好中球の有意な増加が認められた。好中球の増加に伴ってマクロファージの炎症蛋白(MIP-2)が4時間後に、γ-GTP18時間後に上昇した。ニッケル(UFNi)は注入後18時間までは好中球の有意な増加は見られなかった。この時点でのUFNiによる好中球増加はUFCoUFCBと同じである。酸化チタン(UFTi)は注入後にBALF中の好中球の有意な増加を誘発しなかった。4時間後のMIP-2レベルと18時間後のBALF中の好中球増加は粒子表面でのフリーラジカル生成パターンと一致している。そこではUFCoUFCB及びUFNiは全て炎症マーカーを増加させ、プラスミドDNAの枯渇を来たす。このことはヒドロキシラジカルの生成を示唆している。抗酸化剤のN-アセチルシステインやグルタチオンモノエチルエステルが超微細粒子によるTNFαの肺胞マクロファージからの遊離を阻止することから、炎症を仲介するフリーラジカル及び反応性酵素種の役割が明確化された。19) (Dick et al., 2003)

表面を処理した酸化チタン及び非処理の酸化チタンの肺への影響について差があるか否かを研究するために、作業環境に関連した低用量で、市販の2つのタイプの酸化チタンの肺への炎症及び遺伝毒性について研究した。ラットを用い、TiO2/P25(無処理、親水性表面)又はTiO2/T805(シラン化したもの、疎水性表面)粒子を0.25%レシチンを含有する生理食塩水0.2mLに懸濁して0.150.30.6又は1.2mgを単回注入した。陽性対照群には0.6mgのクオーツDQ12を同様に処置した。投与321及び90日後に気管支肺胞洗浄液を採取し、細胞、蛋白量、TNFα、フィブロネクチン及びリン脂質を測定した。更に肺の凍結切片を作成して免疫組織化学的手法によりDNA中の8-オキソグアニン(8-oxoGua)をポリクロナール抗体によって検出した。陽性対照群では肺の炎症反応の強い進展が観察され、90日後には肺細胞DNA中の8-oxoGua量の有意な増加が見られた。これに対し、TiO2/P25又はTiO2/T805を投与した動物では炎症の徴候は見られず、DNA障害の指標である8-oxoGua量は対照群と同レベルであった。これらの結果は両タイプの酸化チタンは適用した用量範囲内では不活性であった。20) (Rehn et al., 2003)


ヒトにおける知見 (link to HSDB)
職業的に酸化チタン(TiO2)粉塵に曝露される58名の工員は、鼻粘膜スメアの咽喉学的及び細胞学的な検査を繰り返し受けている。検査の結果、慢性の単純性又は萎縮性鼻炎が77%に、咽頭炎が50%に見られた。細胞検査では呼吸器上皮に異形成が見られ、扁平上皮化する像が認められた。カタール性変化の比率及び上皮の異形成の程度はTiO2の曝露期間によって異なることが判明した。上皮及び鼻粘膜の変化は曝露開始後6ヶ月間で発生する。21) (Mickiewicz et al., 1984)

酸化チタン塵埃吸入による肺癌を伴った肺疾患の症例報告。患者は55歳の男性で酸化チタンの包装に約13年間従事していた。剖検時に右肺に乳頭状腺癌が認められた。チタンは肺に散在性に蓄積され、間質及び肺胞間隙にマクロファージの集積が見られた。細気管支と血管周囲の間質には軽度の線維化が認められた。22) (Yamadori et al., 1986)

チタン製造業における209名の従業員についてサーベイした。四塩化チタン又は酸化チタン粒子に暴露されている地域の従業員は肺の換気容量が減少していた。胸膜疾患(斑点又は散在性の肥厚)が17%に見られ、チタン製造の期間と関連していた。また、過去のアスベスト曝露とも関連していた。これらの所見は、四塩化チタン及び酸化チタン粒子は肺の換気容量の減少及びチタン製造工程での予期せぬ胸膜疾患と関連があるとの仮説と一致する。23) (Garabrant et al., 1987)

酸化チタンを曝露された工員1576名について、1956-1985年の癌、慢性呼吸器疾患の頻度及び1935-1983の死亡率を調査した。398名の工員の肺切片とレントゲン写真の異常有無を評価した結果、肺癌及び他の致死性呼吸器疾患に進展するリスクは、酸化チタン曝露工員でも対照群より高くはなかった。酸化チタン曝露と肺癌、慢性呼吸器疾患及び肺レントゲン写真の異常との間に有意な相関はなかった。また、酸化チタン曝露工員に肺線維症は観察されなかった。24) (Chen & Fayerweather., 1988)

酸化チタン曝露による肺癌の危険性を、モントリオール在住の35-70歳の男性で1979-1985年に肺癌と診断された857名、553名の健常人及び533名の肺以外の臓器に癌を有する患者について分析し、検討した。酸化チタン及び他のチタン化合物への曝露有無は産業保健士により、詳細な職業質問表を基に評価した。その結果、肺癌患者33名と対象の健常人43名は酸化チタンに曝露されていると分類された(オッズ比;0.9)。曝露の頻度、レベル及び期間には一定の傾向は見られなかった。少なくとも5年間中又は高濃度曝露のオッズ比は1.0であった。酸化チタン煙霧又は他のチタン化合物に曝露されていると分類された患者はほとんどなかったが、肺癌の危険性はこれらの化合物の曝露により有意ではないが増加していた。結論として曝露の誤分類及び低濃度曝露の一般化が間違った否定的な結果をもたらしたかもしれないが、本研究からは酸化チタンの職業的曝露が肺癌の危険性を増加さすとの示唆は得られなかった。25) (Boffetta et al., 2001)


参考文献
小児(link to STEP database;要Login)

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