日本医薬品添加剤協会
Safety Data
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和名 トリクロロエタン
英文名 Trichloroethane

CAS 71-55-6 (link to ChemIDplus)
別名 メチルクロロホルム,1,1,1,−トリクロロエタン
収載公定書 
用途 溶剤


単回投与毒性 (link to ChemIDplus)
動物種 投与経路 LD50(mg/kg体重) 文献
マウス雌 経口 9700 mg/kg Torkelson, 1958 1)
マウス雌 腹腔内 3700 mg/kg Gradiski, 1974 1)
マウス雄 腹腔内 5080 mg/kg Klaassen, 1966  1)
マウス雄 吸入 120g/m3/30min Woolverton, 1981 1)
マウス雌 吸入 72.4 g/m3/6hr Gradiski, 1978 1)
マウス雄 吸入 21.1 g/m3/2hr Horiguchi, 1971 1)
マウス雄 吸入 99.1 g/m3/1hr Moser, 1985  1)
マウス雄 吸入 111 g/m3/30min Moser, 1985  1)
マウス雄 吸入 159 g/m3/10min Moser, 1985  1)
ラット雄 経口 14300 mg/kg Torkelson, 1958 1)
ラット雌 経口 11000 mg/kg Torkelson, 1958 1)
ラット雌雄 吸入 97.2 g/m3/3hr Adams, 1950 1)
ラット雌雄 吸入 76.9 g/m3/7hr Adams, 1950 1)
ラット雄 吸入 99.4 g/m3/4hr Siegel, 1971 1)
ラット雄 吸入 55.6 g/m3/6hr Bonnet, 1981 1)
ラット雌雄 吸入 205 g/m3/15min Clark, 1982 1)
ウサギ雌雄 経口 10500 mg/kg Torkelson, 1958 1)
ウサギ雌雄 経皮 15800 mg/kg Torkelson, 1958 1)
モルモット雌雄 経口 8600 mg/kg Torkelson, 1958 1)
イヌ雄 腹腔内 4140 mg/kg Klaasen, 1967 1)

EC50 (正向反射に及ぼす影響)
ラット 吸入 45.8 g/m3/4hr Mullin, 1982 1)

EC50 (協調性に及ぼす影響)
ラット 吸入 20.4 g/m3/4hr Mullin, 1982 1)


EC50 (懸垂能(Inverted) に及ぼす影響)
マウス 吸入 31.0 g/m3/1hr Moser, 1985 1)


EC50 (アドレナリンに対する)
イヌ 吸入 37.8 g/m3/5min Clark, 1982 1)


EC50 (血圧低下に及ぼす影響)
イヌ 吸入 21.6 g/m3/a few min Kobayashi, 19831)



反復投与毒性 (link to TOXLINE)
マウス
マウスに1,1,1-トリクロロエタン5.6 g/kgをコーン油に溶解して6週間(週5日投与)経口投与した結果,死亡例は認められなかった。1) (NCI, 1977)

マウスにトリクロロエタン5400 mg/m3(1000 ppm)を14週間連続吸入投与した結果,明らかな肝臓の変化(相対肝重量の増加,中等度なトリグリセリド沈着,肝細胞壊死)が認められた。電子顕微鏡所見では,ポリリボソームが脱落した粗面小胞体の小胞化,滑面小胞体・微小体(ペルオキシソーム)・トリグリセリド小滴の増加がみられた。これは四塩化炭素と同種の変化であったが,その程度は重度であった。1350 mg/m3(250 ppm)では細胞質の変化は軽微であった。1) (McNutt, 1975)

モンゴル スナネズミにトリクロロメタン5400,1134,378 mg/m3(1000,210,70 ppm)を3ヵ月間連続吸入投与した後,4ヵ月間投与を休止した結果,高用量2群では大脳皮質の神経膠線維酸性タンパク(GFA)の増加がみられた。1) (Rosengren, 1985)

モンゴル スナネズミにトリクロロメタン378 mg/m3(70 ppm)を3ヵ月間連続吸入投与した結果,脳内数箇所のDNA濃度の減少が認められた。1) (Karlsson, 1987)

ラット
ラットに1,1,1-トリクロロエタン3.2 g/kgをコーン油に溶解して6週間(週5日投与)経口投与した結果,毒性徴候は認められなかった。しかし,5.6 g/kg群では,死亡例が40%みられ,体重減少を伴った。1) (NCI, 1977)

ラットにトリクロロエタン2700 mg/m3(500 ppm)を1日5時間で5日間吸入投与した結果,一般状態に変化は認められなかった。しかし,対照群と比較して相対的脳内DNA含量の軽度な減少がみられた。1) (Savolainen, 1977)

ラットにトリクロロエタン1750 mg/m3(320 ppm)を30日間吸入投与を行った結果,脳内脂質割合に変化は認められなかった。1) (Kyrklund, 1988)

ラットにトリクロロエタン4320 mg/m3(800 ppm)を1日6時間,週5日で4週間吸入投与を行った結果,絶対及び相対肝重量の増加が認められたが,肝ミクロソーム シトクロムP-450誘導はみられなかった。1) (Toftgaard, 1981)

ラットに1,1,1-トリクロロエタン11880 mg/m3(2200 ppm)を1日8時間,週5日で6週間吸入投与を行った結果,体重増加,血液学的所見,血清尿素窒素,病理組織学的所見に毒性徴候は認められなかった。1) (Prendergast, 1967)

ラットに1,1,1-トリクロロエタン27000,0 mg/m3(5000,0 ppm) を1日7時間,45日間中32日吸入投与を行った結果,被験物質吸入群では体重増加抑制がみられたが,その他の毒性徴候は認められず,血液尿素窒素にも変化はなかった。1) (Adams, 1950)

ラットに1,1,1-トリクロロエタン2059,754 mg/m3を90日間連続吸入投与を行った結果,高用量群で死亡例はみられず,一般状態に変化は認められなかった。しかし,低用量群では死亡例が15例中2例にみられた。生存例では肺にうっ血が種々の程度で認められた。これらの変化が被験物質の吸入によるものか明らかではない。1) (Prendergast, 1967)

ラットにトリクロロエタン54000 mg/m3(10000 ppm)を1日1時間で3ヵ月間吸入投与を行った結果,麻酔性の作用(鎮静,一過性の睡眠)及び相対肝重量の増加が認められたが,器官障害はみられなかった。1) (Torkelson, 1958)

Wistarラットにトリクロロエタン1100 mg/m3(204 ppm)を1日8時間,週5日で14週間吸入投与した結果,毒性徴候は認められなかった。1) (Eben, 1974)

ラットにトリクロロエタン5400,1350 mg/m3(1000,250 ppm)を100日間連続吸入投与した結果,低用量群では変化がみられなかったが,高用量群では相対肝重量の増加認められた。1) (McEwen, 1974)

ラットにトリクロロエタン 2730 mg/m3(500 ppm)を1日7時間,週5日で6ヵ月間吸入投与した結果,中毒徴候は認められなかった。1) (Torkelson, 1958)

ウサギ
ウサギにトリクロロエタン 2730 mg/m3(500 ppm)を1日7時間,週5日で6ヵ月間吸入投与した結果,中毒徴候は認められなかった。1) (Torkelson, 1958)

ウサギに1,1,1-トリクロロエタン11880 mg/m3(2200 ppm)を1日8時間,週5日で6週間吸入投与した結果,唯一,体重増加抑制はみられたが,血液学的所見,血清尿素窒素,病理組織学的所見に毒性徴候は認められなかった。1) (Prendergast, 1967)

ウサギに1,1,1-トリクロロエタン2059,754 mg/m3を90日間連続吸入投与した結果,高用量群で死亡例はみられず,一般状態に変化は認められなかった。しかし,低用量群では死亡例が3例中1例にみられた。生存例では肺にうっ血が種々の程度で認められた。これらの変化が被験物質の吸入によるものか明らかではない。1) (Prendergast, 1967)

モルモット
モルモットにトリクロロエタン 2730 mg/m3(500 ppm)を1日7時間,週5日で6ヵ月間吸入投与を行った結果,中毒徴候は認められなかった。1) (Torkelson, 1958)

モルモットに1,1,1-トリクロロエタン11880 mg/m3(2200 ppm)を1日8時間,週5日で6週間吸入投与を行った結果,体重増加,血液学的所見,血清尿素窒素,病理組織学的所見に毒性徴候は認められなかった。1) (Prendergast, 1967)

モルモットに1,1,1-トリクロロエタン27000,16200,8100,3510,0 mg/m3(5000,3000,1500,650,0 ppm) を1日7時間,1〜3ヵ月間20〜65回吸入投与を行った結果,被験物質吸入群では体重増加抑制がみられたが,その他の毒性徴候は認められず,血液尿素窒素にも変化はなかった。唯一,被験物質と関連した変化としては,病理組織学的検査における肝臓の脂肪変性で壊死はともなっていなかった。1) (Adams, 1950)

モルモットに1,1,1-トリクロロエタン2059,754 mg/m3を90日間連続吸入投与を行った結果,高用量群で死亡例はみられず,一般状態に変化は認められなかった。しかし,低用量群では肺にうっ血が種々の程度で認められた。これらの変化が被験物質の吸入によるものか明らかではない。1) (Prendergast, 1967)

イヌ
イヌにトリクロロエタン5400,1350 mg/m3(1000,250 ppm)を100日間連続吸入投与を行った結果,毒性徴候は認められなかった。1) (McEwen, 1974)

イヌにトリクロロエタン 2730 mg/m3(500 ppm)を1日7時間,週5日で6ヵ月間吸入投与を行った結果,中毒徴候は認められなかった。1) (Torkelson, 1958)

イヌに1,1,1-トリクロロエタン11880 mg/m3(2200 ppm)を1日8時間,週5日で6週間吸入投与を行った結果,唯一,体重増加抑制がみられたが,血液学的所見,血清尿素窒素,病理組織学的所見に毒性徴候は認められなかった。1) (Prendergast, 1967)

イヌに1,1,1-トリクロロエタン2059,754 mg/m3を90日間連続吸入投与を行った結果,高用量群で死亡例はみられず,一般状態に変化は認められなかった。しかし,低用量群では肺にうっ血が種々の程度で認められた。これらの変化が被験物質の吸入によるものか明らかではない。1) (Prendergast, 1967)

サル
サルにトリクロロエタン5400,1350 mg/m3(1000,250 ppm)を100日間連続吸入投与を行った結果,毒性徴候は認められなかった。McEwen, 1974 1)

サルにトリクロロエタン 2730 mg/m3(500 ppm)を1日7時間,週5日で6ヵ月間吸入投与を行った結果,中毒徴候は認められなかった。1) (Torkelson, 1958)

サルに1,1,1-トリクロロエタン2059,754 mg/m3を90日間連続吸入投与を行った結果,高用量群で死亡例はみられず,一般状態に変化は認められなかった。しかし,低用量群では肺にうっ血が種々の程度で認められた。これらの変化が被験物質の吸入によるものか明らかではない。1) (Prendergast, 1967)


遺伝毒性 (link to CCRIS)
試験 試験系 濃度 結果 文献
復帰変異 サルモネラ菌 TA100 mg/plate 代謝活性化法 陽性 Simmon, 1977 2)
復帰変異 サルモネラ菌
TA100,TA1535
1-10 %気体曝露直接法代謝活性化法 陽性 Kiffe, 2003 5)
復帰変異 サルモネラ菌
TA97,TA98
0.01-1.0 mg/plate直接法,代謝活性化法 陽性 Strobel, 1987 4)
復帰変異 サルモネラ菌 T100 0.01-1.0 mg/plate直接法,代謝活性化法 陽性 Strobel, 1987 4)
復帰変異 サルモネラ菌 TA104 0.01-1.0 mg/plate直接法,代謝活性化法 陽性 Strobel, 1987 4)
HPC/DNA修復 初代培養肝細胞 5%,7.5% 陰性 Shimada, 1985 3)
染色体異常
(in vivo)
ラット 875,1750 ppm 6h/day,52週 陰性 Quast, 1978 1)
小核(in vivo) マウス 34-67mg/kg 腹腔内投与 陰性 Salamone, 1981 1)
小核(in vivo) マウス 11-42mg/kg 腹腔内投与 陰性 Tsuchimoto, 1981 1)
小核(in vivo) マウス 266-2000 mg/kg 腹腔内投与 陰性 Gocke, 1981 1)
優性致死(in vivo) マウス 100-1000 mg/kg/day 経口投与 陰性 GLane, 1982 1)
精子形態(in vivo) マウス 130-2680 mg/kg/day 腹腔内投与 陰性 Topham, 1980 1)



がん原性 (link to CCRIS)
B6C3F1マウス5週齡1群雌雄50例に3% 1,4-ジオキサンを含む1,1,1-トリクロロエタンをコーン油で40-60%に希釈して5615,2807 mg/kgを週5日,78週間強制経口投与した。対照群は1群雌雄20例とした。生存例を90週目に屠殺した結果,種々の腫瘍がみられたが,投与群と対照群で統計学的に有意な差は認められなかった。しかし,投与群と対照群の死亡例が多く,がん原性試験としは不適切とみなされた。1) (NCI, 1977)

Osborne-Mendel系ラット7週齡1群雌雄50例に1,1,1-トリクロロエタンをコーン油で75%に希釈して1500,750 mg/kgを週5日,78週間強制経口投与した。対照群は1群雌雄20例とした。生存例を110週目に屠殺した結果,投与群で腫瘍の発生頻度増加は認められなかった。しかし,投与群と対照群の死亡例が多かった(110週目で240例中6例の生存)ことから,がん原性試験としは不適切とみなされた。1) (NCI, 1977)

ラット雌雄に1,1,1-トリクロロエタンをオリーブ油で希釈して500 mg/kgを週4ないし5日,101週間強制経口投与した。トリクロロエタンには1,4-ジオキサンを4%,その他不純物1%が含まれていた。投与群では,白血病が増加したが,対照群,背景データと比較して統計学的に有意差は認められなかった。1) (Maltoni, 1986)

Sprague-Dawley系ラット1ヵ月齢1群雌雄75例に1,1,1-トリクロロエタン9555,4778 mg/m3(1750,875 ppm)を1日5時間,週5日で12ヵ月間吸入投与した。無処置対照群雌雄75例を設けた。18ヵ月間観察した後,生存例を屠殺,検査した。死亡例,腫瘍発現頻度は対照群と投与群で差が認められなかった。1) (Rampy, 1977)

上記試験を検証するとトリクロロエタンの純度は96%で,安定化剤として1.4-ジオキサンが3%,ニトロメタンが0.4%,酸化ブチレンが0.5%含まれていた。12ヵ月間の投与期間はラットの生涯期間と比較して短く,短期投与用量設定試験も実施されていない。吸入濃度は極めて低いと考えられる。1) (US EPA, 1984)

B6C3F1マウス5-6週齢1群雌雄80例,Fischer-344系ラット4-6週齡1群雌雄80例に1,1,1-トリクロロエタン8190,2730,820,0 mg/m3(1500,500,150,0 ppm)を1日6時間,週5日で2年間吸入投与した。投与18,12,6ヵ月目に1群雌雄10例を中間屠殺をした。トリクロロエタンの純度は94%で,5%の安定化剤と1%未満の不純物が含まれていた。いずれの投与群の腫瘍発現頻度も対照群と比較して差は認められなかった。1) (Quast, 1988)


生殖発生毒性 (link to DART)
マウス,ラット雌に1,1,1-トリクロロエタン4700 mg/m3(875 ppm)を1日7時間,妊娠6-15日に吸入投与した結果,母体毒性,催奇形性,胎仔毒性も認められなかった。1) (Leong, 1975)

ラット雌に1,1,1-トリクロロエタン11340 mg/m3(2100 ppm)を1日6時間,週5日間で交尾前2週間,週7日で妊娠期間中(20日間)に吸入投与した結果,胎仔重量の減少,仮骨遅延などの軽度な内臓・骨格変異がみられた。母体毒性は認められなかった。1) (York, 1982)

マウスに1,1,1-トリクロロエタンを1000,300,100,0 mg/kgとなるよう飲水に混入して連日2世代にわたり投与し,催奇形性,優性致死性を含め生殖性について調べた。その結果,生殖性における毒性徴候は認められなかった。1) (Lane, 1982)

Sprague-Dawley系ラット,ニュージランド白色ウサギに1,1,1-トリクロロエタン32400,16200,5400,0 mg/m3(6000,3000,1000,0 ppm)を1日6時間で妊娠6-15日(ラット),6-18日(ウサギ)に吸入投与した結果,ラット高用量群では頸骨中央の未仮骨・仮骨不全の増加,胎児体重雌の減少,着床痕の増加,ウサギ高用量群では,両側性過剰第13肋骨の増加がみられた。ラット,ウサギともに発生毒性の無作用量(NOEL)は16200 mg/m3とみなされた。いずれの動物種も,発生毒性は母体毒性の下で認められる。1) (OHEA, 1988) 5.5 Sprague-Dawley系ラット発生期に1,1,1-トリクロロエタン10 mgを飲料水1Lに混入して与えると心奇形を惹起したと報告されている(Dapson, 1984)。再現するための予備試験を実施した。CDラットに乳化剤として0.05% Tween80を加えた飲用水に1,1,1-トリクロロエタン 30,10,3,0 mg/Lを交配前14日間(同居後少なくとも13日間)与え,交尾した(精子陽性)雌について,妊娠期間,授乳期の出生後21日まで投与を継続した。その結果,親動物の生殖能,出生後の体重増加,出生仔の発育(生殖能力,妊娠期間,1腹胎仔数,体重,生存率)に影響はみられなかった。更に,いかなる心奇形,他の奇形の増加も認められなかった。従って,Dapsonによる報告を,異なる系のラットで3倍量投与したが,再現することはできなかった。1) (George, 1989)


局所刺激性
ウサギの皮膚にトリクロロエタンを反復閉塞適用した結果,軽度な(mild)刺激性が認められた。局所は紅斑を示し,痂皮を形成したが,一過性の変化で速やかに正常に復した。1)(Torkelson, 1958)

モルモットの皮膚に1,1,1-トリクロロエタン 1 mLを滴下してガラス容器で15分間閉塞した結果,浮腫が認められた。曝露を数時間に延長すると真皮の上部に達する重篤な炎症性変化を示した。曝露15分,1,4,16時間目の組織所見では,真皮への変化が曝露時間に応じて拡大した。1) (Kronevi, 1981)

ウサギの健常皮膚,損傷皮膚にトリクロロエタンを90日間まで反復適用した結果,軽微な(slight)刺激性がみられたが,回復性の変化であった。1) (Torkelson, 1958)

ウサギの剃毛した腹部皮膚にトリクロロエタンを綿花に浸して反復閉塞貼付した結果,軽度な紅斑,痂皮が認められたが,反復貼付により軽度となった。1) (Torkelson, 1958)

ウサギの剃毛した皮膚にトリクロロエタン 0.5 mLを24時間閉塞貼付した結果,中等度(moderate)な刺激性が認められた。1) (Duprat, 1976)

OECD法(4時間の半閉塞貼付)でトリクロロエタンの皮膚刺激性を調べた結果,皮膚刺激物(skin irritant)と報告されている。1) (van Beek, 1990)

ウサギ眼粘膜にトリクロロエタン 100μLを単回点眼した結果,軽微(slight)ないし中等度な(moderate)結膜の刺激性がみられたが,角膜への傷害は認められず,軽度な(mild)眼粘膜刺激物とみなされた。1) (Torkelson, 1958)


その他の毒性
抗原性
ウサギに1,1,1-トリクロロエタン100,10,2 mg/m3(18,1.8,0.4 ppm)を1日3時間,週6日,8-10ヵ月間吸入投与した。6週目にSalmonella typhimuriumを皮下投与して8ヵ月以上にわたり免疫応答性を調べた。高用量,中間用量群では抗体価が減少した。この免疫応答性の低下は,α,β分画の電気泳動移動度の増加によるもので,溶血素(ヒツジ赤血球のフォルスマン抗原)の低下もみられた。1) (Shumuter, 1977)


ヒトにおける知見 (link to HSDB)
誤用
呼吸器系の症状,咳,息切れ,胸苦しさは,急性中毒症状として一般的にみられる。1) (Boyer, 1987)

4才齢の少年が1,1,1-トリクロロエタンを30 cm3含む床補修材とベッド カバーで遊んでいた例を報告する。兄弟が異常な音を聞いたため,この少年は速やかに発見された。しかし,発見時,少年は呼吸をしていなかった。少年は病院に搬送される途中で蘇生したが,到着まで12分間昏睡状態であった。少年は1,1,1-トリクロロエタンによって意識のない状態に置かれ,異常な音は低酸素状態による発作と考えられる。少年は48時間で退院した。小児科病院に入院中に肝臓ビリルビン値に変化を伴う肝機能異常が認められた。1) (Gerace, 1981)

換気の悪い部屋で塗料を洗浄中こぼした塗料用シンナーの曝露により死亡した女性の例を報告する。剖検では,肝臓の軽度な脂肪変性,肺の急性浮腫,うっ血がみられた。1,1,1-トリクロロエタン濃度は,脳,腎臓,肝臓,血液でそれぞれ36,12,5,2 mg/100mLであった。1) (Caplan, 1976)

地下室に10分間居た男性が倒れ,死亡した。この地下室には1,1,1-トリクロロエタン27 g/m3(5000 ppm)を超える量が充満していたと考えられた。1) (Kleinfeld, 1966)

海軍の軍艦,飛行機の部品をトリクロロエタンで掃除中に7名の犠牲者がでた例を報告する。これらの場合の曝露量は270 g/m3(50000 ppm)と見積もられた。いずれの例も病理学的な所見は肺の浮腫がみられたが,肝臓障害はなかった。1)(Stahl, 1969,Hatfield, 1970)

トリクロロエタンのタンクを傾けて,溶剤で手を洗浄後,死亡した。この男性はタンクの横で意識不明となり倒れた。男性の胸のあたりでの溶剤濃度は378 g/m3(70000 ppm)と見積もられた。1) (Northfield, 1981)

閉め切った部屋で洗浄のためトリクロロエタンを使用していた死亡例では,男性は床に倒れており,頭部,頚部に化学物質による火傷を負っていた。火傷は床にこぼれた溶剤による経皮吸収と一致していた。1) (Jones, 1983)

10歳台の労働者が溶剤を浸した布で自動車内を掃除していた死亡例では,死因は1,1,1-トリクロロエタン中毒,吸入時の嘔吐と考えられた。1) (Jones, 1983)

その他
被検者4名にトリクロロエタン4968 mg/m3(920 ppm)を70-75分間チャンバー内で吸入曝露させた。軽度な中枢神経障害症状が4名中3名でみられ,1名では軽度な眼粘膜刺激性が認められた。2名では,治験中の強い臭気を報告している。
2700-2970 mg/m3(500-550 ppm)90-450分間吸入曝露では,中枢神経障害症状は認められなかったが,10260 mg/m3(1900 ppm)5分間曝露では,顕著な臭気と平衡感覚障害がみられた。本試験の詳細は不明である。1) (Torkelson, 1958)

トリクロロエタン2700 mg/m3(500 ppm)を78-186分間曝露では,中枢神経毒性,その他の毒性は認められなかった。しかし,4860 mg/m3(900 ppm)73分間曝露では,中枢神経障害(頭の変な感覚,ロンベルグ試験成績の低下)が被検者の半数に認められた。また,軽度な(mild)眼粘膜刺激性がみられた。この他,被検者は0-14310 mg/m3(0-2650 ppm)の範囲で15分間以上,曝露した結果,5400 mg/m3(1000 ppm)に達したとき,軽度な(mild)眼粘膜刺激徴候が被検者7名中6名で認められた。また,急激な中枢神経症状,主に眩暈がみられた。咽喉粘膜刺激性は,10800 mg/m3(2000 ppm)で被検者7名中6名が経験した。重度な中枢神経障害(平衡感覚失調,頭の変な感覚)は,最高量14310 mg/m3(2650 ppm)に達したとき生じた。更に,肝臓,腎臓への軽度な影響も認められた。これらの変化は回復性とみなした。1) (Stewart, 1961)

若い男性被検者(young men)にトリクロロエタン2430 mg/m3(450 ppm)を4時間曝露を2回(昼食のため1時間中断)行った結果,被検者は眩暈と軽度な興奮を経験したが,曝露の最初30分間であった。また,軽度な(mild)眼粘膜刺激性がみられた。行動試験では,いずれも有意な変化は認められなかった。1) (Salvini, 1971)

男性被検者12名に1350 mg/m3(250 ppm),次いで1890 mg/m3(350 ppm),2430 mg/m3(450 ppm),2970 mg/m3(550 ppm)を順次30分間づつ曝露した。2430 mg/m3(450 ppm)曝露時,反応時間,知覚速度,手先の器用さが低下した。1890 mg/m3(350 ppm)曝露時でも知覚速度の低下がみられた。無作用量(NOEL)は1350 mg/m3(250 ppm)と見積もられた。1) (Gamberale, 1973)

被検者チャンバー内で1,1,1-トリクロロエタン 1990 mg/m3(350 ppm),950 mg/m3(175 ppm)を3-5時間曝露した。新規2種を含む数種の精神運動試験を行った結果,注意散漫(Stroop test),文法上記載を分析すべきもの(統合推論試験:syntactic reasoning test)が1名で観察された。精神運動試験における行動欠如は1,1,1-トリクロロエタンの曝露時間と血中濃度に応じて認められた。行動の変化は迅速で,ある被検者では20分以内であったが,例外もみられた。Stroop試験では行動亢進が曝露後にみられたが,統合推論試験ではトリクロロエタン曝露による影響はなかった。短期間の主観的福利には曝露は影響なかった。他の検査項目では,単純反応時間,4拓選択反応試験は増加した。1) (Mckay, 1987)

男性被検者(20-25歳)9名にトリクロロエタン2160,1080 mg/m3(400,200 ppm)を4時間,両用量の間には6日間空けて吸入曝露して,広範囲な行動試験を実施した結果,中枢神経系に及ぼす影響は認められなかった。ただ,被検者が眼を閉じた時に,体躯の傾きを測定した成績では若干の変化がみられた。1) (Savolainen, 1981,1982a,1982b)

男性被検者に2700 mg/m3(500 ppm)を1日7時間,5日間吸入チャンバー内で曝露した。主な症状,例えば,眠気,頭痛,頭の変な感覚,眼粘膜及び鼻粘膜刺激は記録したが,対照群でみられない症状の評価は困難であった。平衡感覚試験で2名が2回出来なかったことを除いて,行動試験(Romberg試験変法)における障害は認められなかった。1) (Stewart, 1969)


引用文献
1) IPCS Environmental health criteria 136 1,1,1-Trichloroethane. (Accessed; Jul. 2005, http://www.inchem.org/documents/ehc/ehc/ehc136.htm)
2) Simon VF, Kauhanen K. and Tardiff RG Mutagenic activity of chemicals identified in drinking water. Dev. Toxicol. Environ. Sci. 1977; 2: 249-258
3) Shimada T, Swanson AF, Leber P and Williams GM Acitivities of chlorinated ethane and ethylene compounds in the Salmonella/rat microsome mutagenesis and rat hepatocyte/DNA repair assays under vapor phase exposure conditions. Cell Biol. Toxicol. 1985; 1: 159-179


   

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