委員会は、他の低吸収化合物 (セルロース類,多価アルコール,ゴム,デンプン類及び他のアルギン酸塩) を用いた動物実験において認められた同様の作用 (成長抑制及び軟便)
に注目していた。
委員会は,アルギン酸プロピレングリコールのADIは,開示されるプロピレングリコール量によってのみ制限されることを繰り返した。アルギン酸プロピレングリコールには,36%までプロピレングリコールが含まれる。この量すべてが加水分解すると仮定すると,プロピレングリコールのADIが0-25
mg/kgであることを考慮し,アルギン酸プロピレングリコールのADIとして0-70 mg/kg (100/36 x 25) を設定した。委員会はプロピレングリコールに関する新たな毒性試験に気がついていたが,その化合物は対象となっていなかったため,そのデータは検討されなかった。
委員会はプロピレングリコールについて将来の会議で討議することを推奨した。アルギン酸プロピレングリコールのADIは,プロピレングリコールのADIをもとに設定されていることから,同化合物についても同じ会議において再度討議することが推奨された。
単回投与毒性 (link
to
ChemIDplus)
動物種
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投与経路
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LD50(mg/kg体重)
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文献
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マウス
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経口
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7800
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FDRL,1976
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ラット
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経口
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7200
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FDRL,1976
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ハムスター
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経口
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7000
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FDRL,1976
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ウサギ
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経口
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7600
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FDRL,1976
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1群60匹のラットにアルギン酸プロピレングリコールの5 g/kgを強制経口投与もしくは50%~70%含有飼料の混餌投与により24時間供与した。悪影響は観察されなかった。投与14日後剖検において,化合物投与に関連した異常は認められなかった。(Woodard
Res. Corp., 1972)
コーン油に懸濁したアルギン酸プロピレングリコールの10 gを経口投与したラットにおいて,一過性の機能低下が認められた。他に異常は認められなかった。(Newell
& Maxwell, 1972)
滅菌水で調製した2%アルギン酸プロピレングリコール水溶液の2 mLを,ウサギの皮下もしくは筋肉内に投与した結果,剖検及び組織学的検査において異常は認められなかった。腹腔内及び静脈内への同用量の投与において,全身性の影響は認められなかった。(Ouer et al., 1935)
■反復投与毒性 (link to
TOXLINE)
1群10匹のマウス(体重12-18 g) 4群に,0, 5, 15あるいは25%アルギン酸プロピレングリコール含有飼料を12ヵ月供与した。投与39週に対照群及び15%含有飼料群の各1例を殺処分した。25%含有飼料群では,死亡率の増加,最大体重の低下,摂餌量の低下及び摂水量の増加が認められた。
15%含有飼料群では,最大体重及び摂餌量の軽度の低下が認められた。これは,おそらく飼料の水分吸収が増加し摂餌量を制限するのに十分な容積になったためと考えられた。(Nilson & Wagner, 1951)
ラット
1群6匹の雌性ラット2群に,21.5%アルギン酸プロピレングリコール及び21.5%グルコース含有飼料もしくは21.5%グルコース含有通常飼料を4週間供与した。4週間投与後,各群2匹の動物を剖検し,残りの各群4匹の生存例には,さらに4週間通常飼料を供与した。その後,最初の対照群には21.5%アルギン酸プロピレングリコール含有飼料を,被験物質投与群には通常飼料を,それぞれ2週間供与した。被験物質投与群では軽度の発育遅延がみられたが,一般状態及び行動に異常は認められなかった。被験物質投与群では,粘液便が認められた。4週間投与後に剖検した各群2匹における肝臓,腎臓及び腸管の病理組織学的検査において異常は認められなかった。(MRCL,
1951)
15匹の雄性ラットに,5%(w/w)アルギン酸プロピレングリコール含有飼料を30日間供与した。下痢は観察されず腸の動きも正常であった。尿検査において異常は認められなかった。すべてのラットにおいて盲腸の拡張がみられ,5匹においては回腸の一部の拡張が観察された。12匹のラットにおいては,軟性内容物を含む様々な程度の結腸の拡張が認められた。10匹のラットにおいて,軟らかい異常な型の糞が観察された。剖検においてその他の異常はみられなかった。病理組織学的検査は実施しなかった。(Anderson
et al., 1991)
モルモット
1群3匹のモルモットの4群に,0, 5, 10もしくは15%アルギン酸プロピレングリコール含有飼料を26週間供与した。被験物質投与群において体重増加量の低下がみられたが,摂餌量に対照群との差は認められなかった。病理組織学的検査において,明らかな病変は認められなかった。(Nilson & Wagner, 1951)
ネコ
8匹の投与群及び1匹の対照群のネコに,ドッグフード及びサケ缶からなる飼料に,0, 5, 10あるいは15%の濃度でアルギン酸プロピレングリコールを添加し88日~111日間供与した。被験物質投与群の動物は,飼料の物性により摂食及び嚥下が困難であった。これらの動物は1日当たり100
g以上のドッグフード及び30 g以上のサケ缶を摂取できず,そのため体重が減少した。10及び15%含有飼料投与群では,軟便の発現頻度の増加が認められた。剖検及び病理組織学的検査において明らかに異常は認められなかった
(詳細は不明)。(Nilson and Wagner, 1951)
ニワトリ
13日齢のニワトリ4群 (1群の例数は不明) に0, 5, 10あるいは15%アルギン酸プロピレングリコール含有飼料を3-7週間供与した。すべての投与群において,摂食困難による成長率の低下が認められた。病理組織学的検査において,軽度の一過性の組織学的変化が対照群及び投与群で認められた
(詳細は不明)。(Nilson & Wagner, 1951)
イヌ
1群雌雄3匹のビーグル犬3群に,0, 5あるいは15%アルギン酸プロピレングリコール含有飼料を1年間供与した。糞便の状態は15%含有飼料群で変動した。体重増加及び摂餌量は正常であった。血液学的検査値
(詳細は不明),血清尿素窒素,血清アルカリホスファターゼ及び血糖,並びに尿検査値(詳細は不明)に対する影響は認められなかった。臓器重量(10臓器)に対照群との差はみられなかった。病理組織学的検査
(21組織)において,被験物質投与に関連した変化は認められなかった。(Woodard, 1959)
■遺伝毒性
(link to
CCRIS)
試験
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試験系
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濃度
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結果
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文献
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復帰突然変異試験
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ネズミチフス菌(6菌株)
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~10
mg/plate
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陰性1
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Isidate et
al., 1984
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染色体異常試験
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ネズミチフス菌(2菌株)
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5% w/v
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陰性2
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SRI, 1972
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染色体異常試験
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ネズミチフス菌(3菌株)
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~0.6%
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陰性1
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LBI, 1975
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体細胞組み換え試験
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酵母(D3)
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~1% w/v
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陰性2
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SRI, 1972
|
体細胞組み換え試験
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酵母(D4)
|
2.5, 5.0, 10%
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陰性1
|
LBI, 1975
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宿主経由試験
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マウスにネズミチフス菌
(TA1530, G46)をi.p.
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~5 g/kg,
p.o.(1~5日)
|
陰性
|
SRI, 1972
|
宿主経由試験
|
マウスに酵母(D3)をi.p.
|
~5 g/kg,
p.o.(1~5日)
|
陰性
|
SRI, 1972
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染色体異常試験
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CHL細胞
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~1 .0
mg/mL
|
陰性2
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Ishidate et
al.,1984; 1988
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体細胞組み換え試験
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ヒトWI-38細胞
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~1 .0
mg/mL
|
陰性2
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SRI, 1972
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小核試験
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ラット骨髄
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0.03, 2.5, 5.0
g
/kg, p.o.(1~5日)
|
陰性
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SRI, 1972
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優性致死試験
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ラット
|
0.03, 2.5, 5.0
g
/kg, p.o.(1~5日)
|
陰性
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SRI, 1972
|
※1 代謝活性化存在下及び非存在下
※2 代謝活性化非存在下
■がん原性
1群雌雄各10匹のラット (4週齢) の4群に,0, 5, 15もしくは25%アルギン酸プロピレングリコール含有飼料を寿命に相当する期間供与した。15及び25%含有飼料群では,生存日数の軽度の短縮及び摂餌量の軽度の低下が認められた。投与群のみでなく対照群のラットにおいても,心筋の線維化,肺炎及び加齢に伴う複合的な蓄積性の疾患による死亡がみられた。毒血症もしくは腸管に対する局所刺激性を示唆する病変は認められなかった。大容積の飼料は軟便及び粘性の便,並びに栄養失調による体重低下の原因と考えられた。臓器重量は測定しなかった。主要組織
(肝臓,腎臓,脾臓,心臓,脳,肺,胃,小腸,大腸,卵巣/精巣) の病理組織学的検査において,異常はみられなかった。第5群の動物には15%アルギン酸プロピレングリコールを添加した別の基礎飼料を供与した。この群では摂餌量及び摂水量の増加が認められた。糞便も正常であった。この群は投与37週でト殺した。(Nilson & Wagner, 1951)
1群雌雄20匹のラットに,多世代試験の親動物として0% 及び5%アルギン酸プロピレングリコール含有飼料を2年間供与した。各群の雌雄各2匹を,投与1年に病理組織学的検査のためにト殺した。2年後のF0動物の生存率は,対照群では雄で67%,雌で78%,投与群では雄で56%,雌で58%であった。生存期間は761日であった。一般状態,皮膚,被毛,眼,平均体重,もしくは血液学的検査
(雌雄各4匹/群) において異常は認められなかった。剖検及び病理組織学的検査 (主要6臓器) において,投与に起因した異常は認められなかった。(Morgan,
1959)
■生殖発生毒性 (link to
DART)
雌雄各20匹のラットに,0% 及び 5%アルギン酸プロピレングリコール含有飼料を供与した。5~6ヵ月後,F1動物を得るために何匹かの動物を交配させた。雌雄各7匹を対照群とし,雌雄各10匹を投与群に設定した。F1動物においても同様の飼料を供与し,4ヵ月後F2動物を得るために交配させた。F2動物は,雄9匹雌10匹を対照群に,雄9匹雌10匹を投与群に設定し,同様の飼料を供与した。F0動物は761日間生存したが,F1及びF2動物は202日及び212日にそれぞれト殺した。
死亡率,一般状態,平均体重,生殖能,妊娠データ,哺育,並びにF1及びF2の生存率において,対照群との差は認められなかった。F2動物においてのみ血液学的検査を実施したが,異常は認められなかった。臓器重量は測定しなかった。剖検及び主要な6臓器の病理組織学的検査において異常はみられなかった。(Morgan,
1959)
1群22~32匹の妊娠マウス(CD-1)に,コーン油に懸濁したアルギン酸プロピレングリコールの0, 8, 36, 170あるいは780mg/kg/日を妊娠6~15日に経口投与した。170
mg/kg/日群まで,着床,母動物及び胎児の生存への影響は認められなった。軟組織及び骨格の異常発現頻度は,対照群における自然発生性の頻度と差異はなかった。780
mg/kg/日群では,母動物毒性がみられ,32例中7例が死亡した。生存母動物及び胎児は,飼育期間中すべての点において正常であった。(FDRL, 1972)
1群24匹のWistar系妊娠ラットに,コーン油に懸濁したアルギン酸プロピレングリコールの0, 7,
33, 155あるいは720 mg/kg/日を妊娠6~15日に経口投与し、妊娠20日に帝王切開し,母動物及び胎児について病理学的影響及び催奇形性について検査した結果、被験物質投与の影響は認められなかった。(FDRL,
1972)
1群20~23匹の妊娠ゴールデンハムスターに,コーン油に懸濁したアルギン酸プロピレングリコールの0, 7, 33, 150あるいは700 mg/kg/日を妊娠6~10日に経口投与した。妊娠14日に帝王切開を行った。母動物に対する毒性及び生殖への影響は認められなかった。胎児検査において,被験物質投与の影響はみられなかった。(FDRL,
1974a)
1群10~15匹の妊娠ウサギに,コーンオイルに懸濁したアルギン酸プロピレングリコールの0, 8, 37, 173あるいは800 mg/kg/日の用量を妊娠6~18日に経口投与し、妊娠29日に帝王切開を行った。黄体数,着床数,吸収胚数,生存・死亡胎児数及び胎児体重に差はみられなかった。胎児の外表検査では外表異常は認められなかった。投与群の胎児の内臓及び骨格検査において,対照群の胎児との差は認められなかった。(FDRL,
1974b)
■局所刺激性
アルギン酸プロピレングリコールの水性半固形物質を損傷皮膚に適用,もしくは乾燥粉末を眼に適用したウサギにおいて,刺激性を示唆する反応は認められなかった。(Woodard
Res. Corp., 1972)
ウサギにアルギン酸プロピレングリコールの6.2, 12.5及び25mg/kgを静脈内,腹腔内,筋肉内もしくは皮下投与した結果,投与局所及び全身性のいずれの影響も認められなかった。(Steiner
& McNeely, 1951)
■その他の毒性
2匹のラットに通常飼料を6ヵ月間供与し,その後,5%アルギン酸プロピレングリコール含有飼料を3週間供与した後2週間通常飼料を供与した。腸内細菌叢の微生物学的検査において,対照との比較により乳酸桿菌数及び好気性菌数の低下がみられたが大腸菌数の増加が認められた。嫌気性菌数に対照との差は認められなかった。(Woodard,
1959)
■ヒトにおける知見 (link to
HSDB)
誤用
その他
複数の物質に対するアレルギーをもつ50人に,アルギン酸プロピレングリコールの種々の希釈液を皮内投与し検査した。個人もしくは家族にアレルギー歴のない50人を対照とした。11人(試験群8人,対照群3人)に軽度から中等度の皮膚反応が認められた。このうちの5人(すべて試験群)の最大反応時にアルギン酸プロピレングリコールを摂取させたところ,3人に再現性のある軽度のアレルギー反応が認められた。ごく軽度の皮膚反応を示した対照群の3人においてはアルギン酸プロピレングリコールの経口摂取によるアレルギー反応は認められなかった。(Ouer, 1949)
5人の健康成人男性ボランティアに,アルギン酸プロピレングリコールの175 mg/kg/日を7日間服用した後,200 mg/kg/日を16日間服用した。毎日の服用量は,1日量を3回に分け間隔をおいて投与した。被験液は,秤取したアルギン酸ナトリウムを冷却した蒸留水220
mLに加え速やかに攪拌することにより作製した。その後24時間は,各ボランティアが服用前にその親水コロイドを一定量のオレンジジュースに加え濃厚な液状ゲルに水和することを許可した。
服用期間に先行して,同容量のオレンジジュースを服用する7日間の対照投与期間を設けた。投与期間中を通して,明らかなアレルギー反応に関する質問を行った。対照投与3日,被験液投与最終日である23日及び休薬期間最終日である7日に,以下の項目について検査した。
絶食下の血糖,血漿インスリン,呼気中水素濃度,血液学的検査 (Hb, Ht, MCV, MCH,
MCHC, RBC, WBC, 白血球分画, 血小板),及び血液生化学的検査 (Na, Cl, K,
CO2, Urea, LDH, AST, Bili, Al-p, P, Ca, TP, Alb, Crea, 尿酸塩, lipid, CHO, HDL, TG)。定期的尿検査は対照投与期間及び被験液投与期間3週に実施した。
5日間の便採取は対照投与期間の2~6日及び被験液投与期間の16~20日に行った。糞便の輸送時間,湿重量,乾燥重量,水分含量,pH,潜血,中性ステロール,脂肪,揮発性脂肪酸,及び胆汁酸を測定した。アレルギー反応の報告及び発現はなかった。
アルギン酸プロピレングリコールの糞便(pH,水分含量,湿重量及び乾燥重量)への影響は認められなかった。糞便の輸送時間は3人は変化がみられず,一人は延長し一人は短縮した。便の揮発性脂肪酸及び胆汁酸に変化はみられなかった。中性ステロール及びコレステロールの低下が認められた。血液学的検査,血液生化学的検査及び尿検査において顕著な変化は認められなかった。(Anderson
et al., 1991)
■引用文献
1) FAO/WHO. WHO Food Additives Series 32, JECFA 41/159
(link to
WHO DB)
244. Propylene glycol alginate (WHO Food Additives Series 1) (link to
WHO DB)
188. Propylene glycol alginate (FAO Nutrition Meetings Report Series 46a) (link to
WHO DB)
■Abbreviation
ChemIDplus; ChemIDplus DB in TOXNET,
CCRIS;Chemical
Carcinogenesis Research Information System ,
DART;
Developmental Toxicology Literature
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